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青森地方裁判所 昭和39年(行ウ)11号 判決 1965年11月16日

原告 長谷川千代作

被告 深浦町長

主文

本件訴えは、いずれもこれを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、第一次的に「被告が昭和三九年八月二三日訴外山下吉益を深浦町消防団長に任命した処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」、第二次的に「被告の右消防団長任命処分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との各判決を求め、請求の原因として、

「一、原告は、昭和三五年八月二三日青森県西津軽郡深浦町消防団長に任命され、同三九年八月二二日四ケ年の任期を満了した。

二、同消防団は、一六の分団に分れていたので、前同日分団長で構成する後任の消防団長推せんのための会議を開き、出席した一三人の分団長による会議の結果、原告を推せんする者九名、棄権する者四名の内容で、原告を被推せん者に決定したうえ、同日被告に対して推せんした。

三、しかるに、被告は、同年同月二三日同消防団から推せんされていない訴外山下吉益を同消防団の団長に任命した。

四、被告の右消防団長任命処分は、消防組織法一五条の五に違反するものとして、無効のものであり、仮に無効でないとしても取り消されるべきものである。しかして、被告の右任命処分の効力が否定されれば、原告は、当然右消防団長に任命されることになる期待的利益を有する。

五、よつて、原告は、被告との間で請求の趣旨のとおりの判決を求めるため、本訴に及んだ。」

と述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として、

「一、原告主張の請求原因のうち、一の事実は認める。同二の事実は否認する。同三の事実のうち訴外山下吉益が深浦町消防団から団長の推せんを受けたものでないことは否認し、その余の事実は認める。

二、深浦町の慣行では、深浦町消防団の会議は、町長が文書によつて右消防団の分団長を召集して行つていたものであるところ、昭和三九年八月二二日任期が満了する原告の後任の消防団長の推せんについては、同年八月二〇日右慣行により被告が召集した会議において、訴外山下吉益および原告の両名が決定され、被告は、同消防団から右両名を消防団長として推せんされた。このような場合、誰を消防団長に任命するかは任命権者である被告の自由裁量の範囲内に属することであるから、同訴外人を消防団長に任命した被告の処分には、何らの瑕疵がない。

三、のみならず、原告の第一次的請求については、原告は、行政事件訴訟法三六条に定める原告適格を有しないから、右請求にかかる訴えは、不適法である。」

と述べた。

(証拠省略)

理由

原告の本件第一次的請求および第二次的請求にかかるいずれの訴えについても、次の理由により、原告に当事者適格が認められないから、右の訴えは、いずれも不適法である。すなわち、消防組織法一五条の五の規定は、消防団長の人選が消防団の内部事情に即応して適正に行なわれるようにするため、市町村長がその任命権を行使するにあたり、消防団の意向を斟酌する必要を認め、その方法として、右任命を消防団の推せんに基かしめたものと解される。同法一五条の五の規定のこのような趣旨と同法中に右規定による消防団長としての推せんを受けるべき者ないしこれを受けた者の地位を保障する何らの規定もないこととを考え併せると、消防団の推せんの必要を定めた同法がこのことにより予定している利益としては、消防団長の人選が適正に行なわれることにより地域住民が受けるべき一般的利益とともに、自己の意思を消防団長の任命行為に反映させることができることにつき有する消防団自体の特別的利益を考えることができるけれども、このほかに消防団長としての推せんを受けた者の個人的利益を考えることは、困難である。すなわち、消防団長に任命された者の保有する消防団長としての地位がその者の個人的な法的利益に属することは、明らかであるとともに、消防団から消防団長としての推せんを受けた者が、同法一五条の五の規定のあることにより、右のような消防団長の地位に就くことを期待できる立場に立ち、これがその者の個人的利益であることも、否めないところであるけれども、右期待の立場そのものを被推せん者のために保障したものと認むべき法的根拠は、これを見出すことができないのである。したがつて、被推せん者が推せんを受けたことにより有する右の利益は、単に事実上のものにとどまるものといわなければならない。

そうすると、原告が被告の本件係争任命処分により右の利益を失つたとしても、これをもつて行政事件訴訟法三六条にいう「損害」を受けたものということができないのみならず、右任命処分の無効確認ないしその取消しを訴求して、右の利益の確保を図るとしても、これをもつて同法三六条ないし九条にいう右の各訴えにつき「法律上の利益」を有する者ともいうことができない。

してみれば、原告が右の各訴えにつき他に法律上の利益を有するものと認められない本件においては、本件各訴えは、ともに原告が同法に定める原告適格を欠くものとして、不適法であるといわなければならない。

よつて、本件第一次的請求および第二次的請求にかかる訴えを、いずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上守次 井上清 森谷滋)

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